少女の頃
2003年11月4日自分の中で判断を迫られて不安になる瞬間、
いつも心の中を、思い出すべき何かがよぎる。
決まって心に余裕がなく、
たいていは判断を誤って後味が悪い。
何かを裏切ってしまったような、
何かに背いてしまったような、
後悔よりも辛い、苦々しい気持ち。
その思い出すべき何かに先日再会した。
それは、少女の頃、
大事に“育てていた”お人形だった。
あれはぬいぐるみだったっけ?
私がいないとどこにも行けない、
何もできない無力で愛しい者。
母が私にしてくれたように
抱きしめて、食事を与えて、風邪を引いたら
熱を計って、
そして柔らかな毛布でくるんであげた。
私が守る私の“赤ちゃん”。
そんな意識の中で、私は素晴らしく
成長した女性だった。
けれども今母が、
私の右手のアイスクリームをどうにかしなさいと言っている。
溶け始めたアイスクリーム。
左手には私の赤ちゃん。
ほら、その人形を置いて。どんどん溶けてたれ始めてるでしょう。
母の言葉に急き立てられる。
早くティッシュを取りに行きなさい。床が汚れるでしょう。
余裕のない頭で右手も左手もどうするべきか分からずに地団駄を踏む私。
ほら、ほら、まず人形を置くの。邪魔でしょう。
見るからに溶け出したアイスを見て、慌てて人形を放り投げてティッシュを取りに走った。
軽くなった左手を感じる。アイスはとっくに私の手首までたれている。
ティッシュで拭いてもべたつく感じが不快で、このアイスはもう食べる気がしない。
そしてふと大事な赤ん坊を“見捨てた”ことを思い出す。振り向くと、むなしく投げ出された人形が、不自然に腕を曲げて床に横たわっている。
歩み寄り、抱き上げる。申し訳ない気持ちで、私の心は張り裂けそうだった。
私が今までつまづき続けた小石を
拾い上げたような、そんな日だった。
いつも心の中を、思い出すべき何かがよぎる。
決まって心に余裕がなく、
たいていは判断を誤って後味が悪い。
何かを裏切ってしまったような、
何かに背いてしまったような、
後悔よりも辛い、苦々しい気持ち。
その思い出すべき何かに先日再会した。
それは、少女の頃、
大事に“育てていた”お人形だった。
あれはぬいぐるみだったっけ?
私がいないとどこにも行けない、
何もできない無力で愛しい者。
母が私にしてくれたように
抱きしめて、食事を与えて、風邪を引いたら
熱を計って、
そして柔らかな毛布でくるんであげた。
私が守る私の“赤ちゃん”。
そんな意識の中で、私は素晴らしく
成長した女性だった。
けれども今母が、
私の右手のアイスクリームをどうにかしなさいと言っている。
溶け始めたアイスクリーム。
左手には私の赤ちゃん。
ほら、その人形を置いて。どんどん溶けてたれ始めてるでしょう。
母の言葉に急き立てられる。
早くティッシュを取りに行きなさい。床が汚れるでしょう。
余裕のない頭で右手も左手もどうするべきか分からずに地団駄を踏む私。
ほら、ほら、まず人形を置くの。邪魔でしょう。
見るからに溶け出したアイスを見て、慌てて人形を放り投げてティッシュを取りに走った。
軽くなった左手を感じる。アイスはとっくに私の手首までたれている。
ティッシュで拭いてもべたつく感じが不快で、このアイスはもう食べる気がしない。
そしてふと大事な赤ん坊を“見捨てた”ことを思い出す。振り向くと、むなしく投げ出された人形が、不自然に腕を曲げて床に横たわっている。
歩み寄り、抱き上げる。申し訳ない気持ちで、私の心は張り裂けそうだった。
私が今までつまづき続けた小石を
拾い上げたような、そんな日だった。
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