いい子

2004年10月8日
今日電車の中でとてもいいなぁと思う人を見た。
時間は夜の11時を過ぎた常磐線快速電車の中、
疲れモードの車内に乗り込んできたのが
60代くらいの夫婦。
旦那さんの方がだいぶ酔っ払っていて大声で話を始めた。
それに「はいはい」と笑顔で対応するかわいらしい奥さん。
「ここどこだ?」「俺は昼間っから飲んでたんだ!」等々。
正直「迷惑だなぁ・・・」と私は思った。
疲れているときにはちょっとこたえてしまうテンション。
止むことなく続くおじさんのわめきのような独り言。
奥さんはずっと笑顔。
そのうちそのおじさんが目の前にいた20代前半か半ばくらいの女の人に声をかけた。
「俺北千住まで行くんだよ。これ止まる?」
車内の誰もが「止まるよ」と心の中で吐いたんじゃないかと思う。
尋ねられたその人は、「はい、止まりますよ」
ととても感じよく答えた。
「そう、俺ね、今日ずっと飲んでてねもうダメなんだよ、こいつも」
「あぁ、そうなんですか」
ケラケラっとした笑い声混じりの相槌。
その感じのよさに喜んでそのおじさんはどんどん話し始めた。
「もうねぇ、こいつ、全然ダメなの。こんなニコニコしてるけど
うちじゃ全然」
隣で手すりにつかまりながらいつの間にか立ち寝をしていた奥さんが
目を開けてまた笑う。
「大体女ってそうなの。あんたのお母さんもそうじゃない?」
「うちは父の方がわりと大変ですかねぇ」
「俺は大丈夫だよ。こいつだよまったく」
言いたい放題のおじさんの隣でその奥さんは
「はいはい、すいませんね」
と暖かく笑い続けていた。
「もうね、ホント、ホントダメな奴でね、こいつは。俺なんか大変だよいっつも」
「そうなんですかぁ?」
「夫婦ってのはね、いろいろあんだけどさ・・・」
もはや呂律が回っているのかどうかも定かな話し口調ではなかったけれど、一瞬しゅんとした間があった。
「こいつ、いいやつなんだよね」
おじさん、いきなり告白。
「こんなんだけど、いい奴でさ」
見るからに感じの良いその奥さんを、
やっぱりそうなんだ、と私は一人心の中で確信した。
「俺が腹巻の中に300万持ってる時もさ、俺、今なんか10万もねぇけどさ・・・」
「300万〜見てみたい」
ちょっとした昔の栄光話をし始めて、でもほとんど何の話かは分からないんだけど、しかも話してる途中に「あれ、北千住?」ってやたらに間違ってたんだけど、それもその女の子とが「あと二つですよ」なんて教えつつ会話を続けさせてあげていたら、いつの間にかそのおじさん、心が浄化されたみたいに、もう大きい声では話していなかった。
「私の父も今、アルバイトですよ。仕事辞めちゃって、就職できないから」
彼女がまじめに話を聞いていたことが良く分かった。
この時点で私も良く聞いていたんだけど。
その後も彼女はそのおじさんのとりとめのない話を
うんうん頷きながら聞いていた。
それほど深刻にでもなく、
ちょっとした好奇心と、そして暖かさで。
北千住でその夫婦と、そしてその女の子も降りていった。
初めに乗り込んできた時は明らかに迷惑な乗客だったおじさんが、
降りるときにはとても愛らしい人に変わっていた。
あの女の子がいなかったら、
私にとってあのおじさんはただの迷惑な酔っ払いで終わったに違いない。
あの女の子の暖かい対応が、
それを変えたんだなぁと思う。
饒舌だったわけじゃない。
奉仕したわけじゃない。
ただたまたま電車の中で至近距離で立ったもの同士のちょっとした会話だった。
それに、私はとても優しいものを感じて、たまらなくなった。

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